投射モデル — ファイルの置き場所を決めるルール #
パソコンのフォルダは、放っておくと必ず散らかる。
一度きれいにしても、半年で元にもどる。もっと細かく分ければいいのかと思って フォルダを増やすと、今度はどこに入れたか分からなくなる。そして最後には 「その他」というフォルダができて、そこに何百個もたまっていく。
この文書は、そうならないためのルールをまとめたものだ。ルールは三つしかない。 長いのは、そのルールがなぜ効くのかという説明のほうだ。
1. なぜ散らかるのか #
散らかる原因は、ファイルの多さではない。「どこに置こう」と考える回数の多さだ。
ファイルを一つ保存するたびに、あなたは考える。「これはどこに入れよう」と。 考えた答えはどこにも書き残されない。だから次に似たファイルが来たとき、また一から考える。
その日の気分で答えは少しずつずれる。一年たつと、同じ種類のファイルが三か所に分かれている。 どれが正しい場所だったのか、もう自分でも分からない。
ここで多くの人は「分け方が足りないからだ」と考えて、フォルダを増やす。 でもこれは逆効果だ。フォルダが増えるほど「どれに入れるか」の判断が難しくなる。 迷ったものを入れる場所が必要になり、「その他」が生まれる。
だからこのルールが目指すのは、きれいなフォルダを作ることではない。 「どこに置こう」と考える回数を減らすことだ。
2. まず、大きく二つに分ける #
いちばん上の分け方は、たった一つの質問で決める。
それは、いつか終わるもの? それとも終わらないもの?
- 終わらないもの — 部活、毎日の宿題、家の手伝い。ずっと続く。「完成しました」がない
- 終わるもの — 自由研究、読書感想文、文化祭の準備。提出したら、それで終わり
書類/
├── ずっと続くもの/
└── いつか終わるもの/
この文書では前者を Base(土台)、後者を Focus(今そこを見ている場所)と呼ぶ。 呼び方は「continuing」でも「ずっと」でも何でもいい。大事なのは分け方を一つに絞ることだ。
なぜ一つに絞るのか #
「大事なもの / そうでもないもの」「今やってる / まだやってない」「学校 / 家」 ——こういう分け方を足したくなる。でも足すたびに、置くときの質問が増える。 質問が二つあれば迷いは二倍になる。
とくに危ないのが「今やってるかどうか」で分けることだ。 今日やっている宿題も、明日には終わる。終わるたびにフォルダを移さないといけない。 そして必ず、移すのを忘れる。
フォルダの場所が表すのは「性格」であって、「今の状態」ではない。 性格は変わらないが、状態は毎日変わるからだ。
3. ルールは三つだけ #
ここがこの文書の心臓部だ。
ルール1 中身が二つ以上たまってから、決まった5つの入れ物を作る
ルール2 作るなら5つ全部。作らないなら一つも作らない
ルール3 入れ子は2回まで。3回目が必要になったら、上の階に引っ越す
いちばん大事なのは、ルール1の「たまってから」という部分だ。
先に箱を作らない #
新しいことを始めるとき、つい先にフォルダを作りたくなる。 「勉強」「趣味」「大事なもの」……。でもこれをやってはいけない。
なぜか。中身がないうちに作った箱は、あなたの想像でできているからだ。 実際にファイルがたまってみると、想像とはちがう形をしている。 すると箱と中身が合わなくなり、どこにも入らないファイルが出てくる。それが「その他」の正体だ。
中身ができてから、その中身に合わせて形を作る。この順番だけは絶対に守る。
この「中身が形を決める」という考え方を、この文書では投射と呼んでいる。 名前の由来は言葉の研究にあるが、覚えなくていい。「中身が先、形はあと」とだけ覚えればいい。
5つの入れ物 #
作ると決めたら、この5つを作る。
入れ物を作ったフォルダ/
├── 説明.md ここが何の場所かを書いておく紙
├── 記録.md やったことを日付順に書いていく紙
├── 共通フォーマット/ 中の仕事の二つ以上で使い回すもの(ひな型や作業の手順書)
├── 仕事/ 一件ずつの仕事の中身(プロジェクトより小さく、タスクより大きい)
└── 墓場/ 終わったもの、古いもの
名前は好きにしていい。ただし一度決めたら全部同じ名前を使うこと。
ここでは以下、共通フォーマット を commons、仕事 を matters、墓場 を piles と呼ぶ。
(説明.md を CLAUDE.md という名前にしている人もいる。
AIにパソコンの作業を手伝ってもらうとき、その名前のファイルを自動で読んでくれるからだ)
空でも5つ置く理由 #
「うちは小さいから3つでいいや」と思うかもしれない。でもそれはやらないほうがいい。
なぜなら「これは小さいか、大きいか」という新しい判断が毎回増えるからだ。 最初に減らしたかったのは、まさにその判断だった。
空のフォルダがいくつかあっても、じゃまにはならない。 それより「毎回考えなくていい」ほうがずっと得だ。
作らないなら、一つも作らない #
逆に「作らない」と決めた場所には、説明の紙も置かない。中身が一枚ならフォルダにしない。 ファイルのまま、そこに置く。
こうしておくと、いいことがある。フォルダを開ける前に、中の形が分かるのだ。
commonsmatterspilesが見えたら → ちゃんと作った場所- 見えなかったら → ただの書類が入っているだけ
4. 一件分の仕事の中身 #
matters の中に入るのが、一件分の仕事だ。
そもそもフォルダにするか #
何でもかんでもフォルダにしてはいけない。フォルダにしていいのは、こういうものだ。
終わりがあって、しかも「出すものが二つ以上ある」か「相手がいる」
「プリントを出す」みたいなやることは、フォルダにしない。記録の紙に一行書けばいい。 フォルダにした瞬間、それは「一件分の仕事」になってしまう。すると中を分けたくなり、 階層がどんどん深くなる。
相手がいる仕事は、三つに分ける #
相手とやりとりする仕事には、三つの場面しかない。 受け取る、作る、返す。この三つだ。
仕事のフォルダ/
├── 01_もらったもの/ 相手から来たもの(お題のプリント、参考の本、直してほしい所のメモ)
├── 02_作りかけ/ 今つくっているもの
└── 03_出したもの/ 提出したもの。日付をつける
番号を付けるのは、いつも同じ順で並ぶようにするためだ。
この分け方の一番のねらいは、02_作りかけ を作ることにある。
作業中のフォルダは散らかる。当たり前だ。だから「散らかすな」と言っても守れない。 散らかっていい場所を一つ決めて、そこから出さないようにする。
そのかわり 01 と 03 は散らからない。もらったものは増えたり減ったりしないし、
出したものはもう変わらないからだ。
そして何より、「どれを提出したのか」がひと目で分かる。
作文_最終_ほんとの最終2.docx みたいなファイルが生まれるのは、
出したものと作りかけが同じ場所にあるからだ。場所を分ければ、名前で区別する必要がなくなる。
相手がいないなら、分けない #
自分だけで終わる仕事(メモ、練習、思いつき)は、分けなくていい。そのまま置く。
何度もやりとりするとき #
同じ相手と何度もやりとりすると、「一回目」「二回目」が増えていく。 このとき三つのフォルダを回数分ふやしてはいけない。
| どこで表すか | なぜ | |
|---|---|---|
| 場面(もらう・作る・返す) | フォルダ | いつも三つ。増えない |
| 回数(一回目・二回目) | ファイルの名前 | 増える |
増えないものだけをフォルダにする。これは覚えておくと、いろいろな場面で使える。
清書は一つだけ #
02_作りかけ が散らかっていいのは、材料のことだ。メモ、写真、集めたデータ。いくつあってもいい。
でも清書は別だ。いつも一つだけにする。
新しく書き直したら、その場で古いほうを piles に移す。「あとでやる」ではなく、その瞬間に。
理由がある。材料はなくしても探せばいい。でも清書を取りちがえると、事故になる。 古いほうを提出してしまったら、もう取り返しがつかない。
piles に移すときの名前は、何をしたかったのかが分かる名前にする。
○ 作文_むずかしい言葉をへらした版
× 作文のコピー7
「のコピー7」という名前が生まれるのは、作ったその場で片づけていないからだ。
5. どこまで深くしていいか #
フォルダの中にフォルダを作ることを「入れ子」という。入れ子は2回までにする。
大きいフォルダ/ 1
└── matters/ 2 ← 一件分の仕事がいくつも横に並ぶ
├── 仕事A/
├── 仕事B/
└── 仕事C/ 3 ← このどれかが中でもう一度入れ物を作る(2回目。これで最後)
└── matters/ 4 ← ここにも仕事が横に並ぶ
├── 仕事C-1/
└── 仕事C-2/ 5 ← ここではもう作れない
└── ファイル 6
一回目は大きいフォルダ、二回目はその中の一件。入れ物を作れるのはここまでだ。 三回目が必要になったら、深くするのではなく、そのフォルダを上の階に引っ越させる。
仕事が増えても、深くはならない #
ここを間違えやすい。matters の中は、仕事が横に並ぶ場所だ。
仕事が100件になっても、深さは変わらない。100件が横に並ぶだけだ。 深くなるのは、その中のどれかが「自分の中にもう一度入れ物を作った」ときだけになる。
数が増えるのは横。深さには関係ない。
数えなくていいもの #
02_作りかけ の中を「写真」「メモ」みたいに分けるのは、数に入れない。
あれは入れ物を作っているのではなく、散らかったものを仕分けているだけだからだ。
アプリが勝手に作るフォルダ、ダウンロードしたデータのかたまりも数えない。 自分で作った深さではないからだ。
なぜ2回までなのか #
理屈のうえでは、フォルダは何段でも作れる。でも人間のほうがもたない。
フォルダは一段ごとに「開く」という手間がかかる。五段目にあるファイルを見るには、 五回開く必要がある。しかも途中でどれを開いたか忘れる。先に限界が来るのは、 コンピュータではなく人間のほうだ。
6. 名前の付け方 #
1. 親フォルダを見れば分かることは、書かない
2. 日付を先に書く
3. 日付は 2026-08-18 のように、年-月-日で書く
4. 区切りは _ にそろえる。人からもらったファイルの名前は変えない
長さは30文字くらいまで。長いとフォルダの一覧で後ろが切れて読めなくなる。
親から分かることは書かない #
× バスケ部/2026年/2026-07-12 2026年 第4回 バスケ部 練習メニューの話し合い
○ バスケ部/2026年/2026-07-12_第4回_練習メニュー
上のほうは、同じことを三回も書いている。「バスケ部」も「2026年」も、 親フォルダにもう書いてあるからだ。
家の中で、家族を「山田太郎くん」とは呼ばない。「太郎」で足りる。 名字はもう分かっているからだ。
フォルダも同じだ。親フォルダに「バスケ部」と書いてあるなら、中のファイルにもう一度書かなくていい。 書くのは、親を見ても分からない部分だけでいい。
なぜ日付を先に書くのか #
三つ理由がある。
- 先頭の長さがそろうので、縦にきれいに並ぶ(
2026-07-12_はいつも11文字) - 名前が切れても、先頭は残る
- 名前順に並べるだけで、時間の順になる
「更新日で並べればいい」と思うかもしれないが、あれはファイルを開いただけで変わってしまうことがある。 名前に入っている日付は変わらない。
ただし、日付が先でない場合もある #
日付を先に書くのがいいのは、中身がいつも同じ種類のフォルダだ。
部活の記録/
├── 2026-07-12_練習メニュー
├── 2026-07-19_練習メニュー
└── 2026-07-26_試合の反省
このフォルダに入るのは、いつも「部活のときの記録」だ。毎回ちがうのは日付だけ。 だから日付が先にくる。
ところが、こういうフォルダもある。
学校からもらったプリント/
├── 遠足のしおり_2026-05-20
├── 健康しんだんのお知らせ_2026-04-10
└── 時間割_2026-04-08
こっちは中身がバラバラだ。遠足、健康しんだん、時間割。毎回ちがうのは中身のほう。 ここで日付を先に書くと、探すときに困る。 「遠足のやつ、どこだっけ」と思い出したのに、日付が分からないと見つけられないからだ。
そのフォルダで毎回変わるものを、先頭に置く。これが本当のルールになる。
もっと簡単に言えば、あなたが思い出すときに使う言葉を、先頭に置くということだ。 「先週の練習の」と思い出すなら日付が先、「遠足の」と思い出すなら中身が先になる。
説明を名前に入れない #
「来月の合宿にむけて練習メニューを決めるための話し合い」——これは中身の説明であって、 探すための名前ではない。
名前は探すためにある。説明は記録の紙に書けばいい。
7. やってはいけないこと #
| やってはいけないこと | なぜ |
|---|---|
| まとめるだけのフォルダを作る | 中身を持たない、名前だけの階層になる |
| 中身がないのに入れ物を作る | 一件しかない場所にフォルダはいらない |
| 墓場の名前を増やす | 一つに決めないと、必要になるたびに新しい名前が生まれる |
| やることをフォルダにする | ファイル一つか、記録の紙に一行でいい |
| 説明を名前に入れる | 名前は探すためのもの |
| 同じことを二か所に書く | かならずズレる。今の状態は説明の紙にだけ書く |
三つ目は特に注意がいる。墓場は絶対に必要になる。 だから名前を決めておかないと、必要になった場所でそのつど別の名前が発明される。
(過去) _PAST Archive 未使用 終了分 いらないやつ……
筆者の場合、一つのフォルダの中だけで、8年間に5種類の名前が生まれていた。
自分で作ったのに、自分で忘れていたのだ。
そして大事なことを一つ。墓場はゴミ箱ではない。 終わったものを置く場所であって、捨てる場所ではない。 お墓と同じで、ときどき訪れる。去年の資料を見返すことは、けっこうある。
8. 同じファイルを二か所に置きたいとき #
同じファイルが二か所にあってもいい。それは間違いとは限らない。
たとえば、部活で撮った写真を、自由研究でも使いたいとする。両方に置いていい。
- 名前は、置く場所に合わせて変えていい。部活の場所では「大会_集合写真」、 自由研究の場所では「観察記録_5月」。同じファイルでも、置く場所によって役割が変わるからだ
- そのかわり、どこから持ってきたかを必ず書く。説明の紙に一行でいい
- 名前が同じかどうかで見分けようとしない。書いた記録でつなぐ
名前を変えたのに、どこから来たか書いていないと、元のほうが直されたときに気づけない。
9. どこから始めるか #
全部を一度にやろうとしない。この順番が安全だ。
- 「終わるもの」と「終わらないもの」の二つに分ける。中身はまだ触らない
- よく使うフォルダを一つ選んで、5つの入れ物を作る。 いちばん散らかっている場所から始めない。よく使う場所のほうが、効果がすぐ分かる
- バラバラになっている墓場を、一つにまとめる。ここが一番効く
- 説明の紙を置く。ここが何の場所で、今どうなっているかを書く
- 点検する(次の章)
中身は書き換えない。動かすのと、名前を変えるだけ。 筆者は一万件くらいのファイルを整理し直したが、ファイルの中身は一文字も変えていない。
10. 点検の道具 #
このリポジトリに入っている inspect.sh は、ルールが破られていないかを自動で数えるプログラムだ。
ファイルの中は見ない。フォルダの形だけを見る。
bash inspect.sh ~/Documents
調べるのはこの六つだ。
① 入れ物を作った場所に、5つそろっているか
② 三つのフォルダ(もらった・作りかけ・出した)が正しい場所にあるか
③ 入れ子が2回を超えていないか
④ 墓場の名前が一つになっているか
⑤ 種類を表す記号が正しい場所にだけ付いているか
⑥ 説明の紙の名前が一種類になっているか
プログラムの最初のほうに設定が並んでいる。フォルダの名前を自分のものに書き換えて使う。
大きく動かしたあとは、必ず走らせること。 ルールは文章で書いてあるので、書いた本人でも次の日には読みまちがえる。 実際に筆者も、「片づけ終わった」と記録していた場所に10個のファイルが残っているのを、 このプログラムを作って初めて見つけた。
11. このルールで解けないこと #
正直に書いておく。
このルールは、ファイルを「どこに置くか」だけを決めるものだ。中身のことは何も言わない。
プログラムを書く人には向かない。プログラムには Git のような専用の道具があり、そちらのほうがずっといい。 このルールが向いているのは、すぐ開いて見たい書類のほうだ。
もう一つ。このルールを作っても、守らなければ意味がない。 だから守るための工夫が入っている。「新しい年のフォルダを作るとき、同時に去年のを片づける」 のように、面倒な作業を、忘れようのない作業とセットにするという工夫だ。
「あとでまとめてやろう」は、必ず忘れる。一つ作ったら、一つ片づける。これだけは守ってほしい。
ライセンス #
このリポジトリの内容は CC BY 4.0(Creative Commons Attribution 4.0 International)で提供する。 文章もプログラムも対象になる。
コピーも、配り直すのも、書き変えるのも、仕事で使うのも自由だ。条件は、 だれが書いたものかを書き添えることだけ。
自分の使いやすいように書き換えて使うことを想定して書いてある。書き換えは大歓迎だ。
投射モデル — ファイルの置き場所を決めるルール / Nighthaven (@moja.blue) / CC BY 4.0
2026-08-18 公開。ここに書いた経験は、筆者が自分のパソコンでやってみた結果にもとづく。